
最近、よく「眠れない」日が増えてきた。
朝の目覚めも悪く、職場でもミスが重なってしまい、精神的にかなり落ち込んでる。
このままでは、会社から何か処分を受けたり、最悪の場合クビになってしまうのではないか——そんな不安を抱えていませんか?
不眠症によるミスに「懲戒処分」は本来適切ではありません
まず、法律や企業倫理の観点から申し上げると、不眠など健康上の不調が原因で起きる業務ミスに対し、即座に懲戒処分を科すのは原則として不適切です。
労働契約法・安全配慮義務の観点から
・「使用者は、労働契約の伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働ができるよう、必要な配慮をするものとする」(労契法5条)
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使用者(会社)には、労働者の心身の健康に配慮する「安全配慮義務」があります。
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心身の不調(たとえばうつ病や不眠など)が疑われる場合は、まず本人の状況を把握し、業務軽減や休養、産業医面談などの支援策を講じることが優先されるべきです。
この点について、労働者による勤務不良に対する精神障害の影響を加味して懲戒処分の有効性が検証された判例をご紹介します。
日本ヒューレット・パッカード事件
同時案は、労働者が「被害妄想など何らかの精神的な不調により、実際には事実として存在しないにもかかわらず、約3年間にわたり加害者集団からその依頼をうけた専門業者や協力者らによる盗撮や盗聴などを通じて日常生活を子細に監視され、これらにより蓄積された情報を共有する加害者集団から職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかしなどの嫌がらせ受けているとの認識を有しており、そのために、同僚らの嫌がらせにより自らの業務に支障が生じており自己に関する情報が外部に漏洩される危険もあると考え、会社に上記の被害にかかる事実の調査を依頼したものの納得できる結果が得られず、会社に休職を認めるよう求めたものの認められず出勤を促すなどされたことから、自分自身が上記の被害にかかる問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめ会社に伝えたうえで、有給休暇を取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けた」ものですが、当該欠勤に対する会社の諭旨退職処分につき、最高裁は以下のように評価して無効と判示しました。
「このような精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、会社としてはその欠勤の原因や経緯をが上記のとおりである以上、精神科医による健康診断を実施するなどしたうえで、その診断結果などに応じて、必要な場合は治療を進めたうえで休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応をとることなく、労働者の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置をとることは、精神的な不調を抱える労働者に対する会社の対応としては適切なものとはいいがたい」
つまり、無断欠勤や仕事上のケアレスミスの多発などについて、労働者のメンヘル不調といった疾病の影響が想定される場合には、直ちに懲戒処分を検討することは適切とは言えず、会社としては産業医等との面談を進め、その診断結果に応じて、必要な場合は治療を進めたうえ、休職などの処分を検討すべきなのです。
懲戒処分になる前にできること
■ 早期に心療内科・精神科を受診
不眠や情緒不安は医療上の明確な症状です。精神科や心療内科を受診し、診断書の取得を第一に目指してください。その場合、診断書には、「うつ状態」「不眠症」「自律神経失調症」などの病名がつく可能性があります。
これによって、就業継続の可否や、一時的な休職の必要性が明記される場合もあります。
そして、自分から会社に対して「休職の申出」を行うのです。
メンタル不調による不眠は、職場のミスや評価に直結しやすく、適切に療養する期間が必要です。医師の診断に基づき、自ら「休職願」を提出するのも防衛策の一つです。
■ 上司・人事へ「自己申告+医療証明」で相談
不眠による仕事のミスを繰り返しながら、何もしないでいると「怠慢」や「能力不足」と見なされかねません。誠実に以下のステップで行動を起こしましょう。
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医師の診断書を持参し、直属の上司に事情を説明
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必要に応じて人事部門にも連絡し、「自ら対応を求めている」姿勢を見せる
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可能であれば、「配置転換」「業務負担の軽減」などの提案をこちらから行う
また、信頼できる同僚と連携しておくことも重要です。職場での孤立は最悪の事態を招きます。少なくとも1人、相談できる職場の同僚を持ち、報告・連絡・相談を徹底してください。
■ 休職制度の活用
会社によっては最大1年程度の休職制度があります(就業規則を調べてください)。この休職制度は、懲戒処分ではなく、治療のための「法的に認められた手段」でもあります。
休職中の場合は、傷病手当金(健康保険)の対象となります(給与の約2/3が支給)。
心身が疲弊している状態では、適切な判断力も奪われがちです。しかし、「症状」と「責任」は明確に分けて考えるべきです。ミスの背景にメンタル不調による不眠があるならば、それは「本人のせい」ではなく、「治療と環境調整」が必要な状態です。
早めに動くことで、自分を守り、回復の道を切り開くことができます。どうか、ご自身の体と心を最優先に考え、必要な対応を始めてください。
メンタル不調から、休職となってしまった場合に受けられる所得補償の制度はこちらの記事からご確認下さい。
休職期間が満了し、退職となってしまった場合の所得補償の制度の流れは、こちらの記事からご確認ください。