
うつ病等の精神疾患で長期間働けなくなった場合、収入の不安を支える制度として「傷病手当金」と「障害年金」があります。
似たような場面で支給されるため混同されがちですが、両者は制度の趣旨や金額の計算方法、受給期間、さらには同時に受給できるかどうかのルールも異なります。
この記事では、傷病手当金と障害年金の関係性や日額の計算方法、さらには傷病手当金受給中に障害年金を請求しておくメリットについて詳しく解説します。
傷病手当金とは
傷病手当金は、健康保険(主に会社員や公務員などの被用者が加入)から支給される制度で、業務外による病気やケガより働けず賃金がもらえない場合の生活補償を目的としています。
支給要件は、簡単にまとめると下記のとおりです。
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健康保険に加入していること
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病気やケガで仕事を連続して4日以上休んでいること
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休業期間中に給与の支払いがない、または減額されていること
傷病手当金の日額の計算方法
支給額は以下の計算式により決まります。
支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額
÷30×2/3=1日当たり支給額
※標準報酬月額は、社員の月の給与に基づき、最低58,000円(第1級)から最高1,390,000円(第50級)の範囲で、50等級に区分されています。
ですから例えば平均標準報酬月額が30万円の場合の1日の支給額は、
30万円 ÷ 30日 × 2/3 ≒ 6,666円/日
となります。
また、療養の期間中に給与の全部または一部を受けることが出来る場合は、その給与を受けることが出来る期間は傷病手当金は支給されませんが、その受けることが出来る給与の額が、上記の通り計算した傷病手当金の額より少ないときは、その差額が支給されます。
そして、支給期間は最長1年6カ月となります。
障害年金とは
障害年金は、国民年金・厚生年金の制度に基づき、病気やケガで日常生活や仕事に制限があるため所得がない、あるいは少ない所得しか受け取れない場合に支給される公的年金です。
支給要件について簡単にまとめると、下記のとおりです。
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初診日が公的年金の加入期間中であること
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障害認定日に一定の障害等級に該当していること
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保険料納付要件を満たしていること
支給要件の詳しい内容については、こちらの記事をご覧ください。
障害年金の金額
障害年金の金額は、等級や初診日に加入していた年金の種類(国民年金・厚生年金)によって異なります。
障害厚生年金を例にとると、報酬比例部分や配偶者・子の加算もあり、詳細な計算は複雑ですが、在職時の平均給与や勤続年数によって変動します。
ここでは主に報酬比例部分の計算方法をご説明します。
障害厚生年金2級の場合:
平均標準報酬月額 × 5.481/1000 × 被保険者期間の月数+平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 被保険者期間の月数
※被保険者期間(社員の在籍期間)の月数が300に満たないときは、300(25年)として計算します。
※平成15年3月以前と平成15年4月以降の報酬を分けて計算しますが、簡易的には「在職時の平均報酬」と「加入期間(勤続年数)」に応じて決まると考えて大丈夫です。
平均標準報酬月額:平成15年3月以前の給与・賞与を月額に換算し、加入期間で平均したもの
平均標準報酬額:平成15年4月以降の給与・賞与を合算し、月単位で平均したもの
◆具体例
例えば:
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平均標準報酬月額:30万円
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平均標準報酬額:35万円
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被保険者期間:20年(=240ヶ月)、とした場合は、
30万円 × 5.481/1000 × (平成15年3月以前の月数)+35万円 × 5.481/1000 × (平成15年4月以降の月数)
となり、報酬額が高かった人や厚生年金の加入期間が長い人ほど年金額は増える仕組みです。
障害年金の最新版の支給額の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
傷病手当金と障害年金の関係
実は、両者は同時に全額を受け取ることはできません。
健康保険法では、傷病手当金と障害厚生年金や障害手当金が「同一の傷病」で支給される場合、原則として障害年金が優先されることになっています。
つまり、傷病手当金の支給期間が残っていても、同一の傷病で障害厚生年金をうけられることになった場合は、傷病手当金は支給されません。
ただし、障害厚生年金の額の1/360の額が、1日当たりの傷病手当金の額より少額であれば、その差額が支給されます。
つまり、「障害年金の方が金額が低い場合、差額補填がされる」ということです。
このことにより、傷病手当金が支給されない時は支給期間の減少はありませんが、差額が支給される場合は支給期間が減少します。
傷病手当金受給中に障害年金を請求するメリット
傷病手当金と障害年金の金額を比較すると、傷病手当金のほうが高額であることが多いです。
この場合、傷病手当金を受給している人が障害年金を請求して受給できても、実質的な合計の所得補償は傷病手当金と同額で変わらないのですが、この様な場合でも傷病手当金受給中に障害年金を請求するメリットは、下記のとおりです。
① 将来の安定収入の確保
傷病手当金は1年6ヶ月の支給で打ち切られますが、障害年金は障害が続く限り(または更新時に認定されれば)長期的に支給が続くため、早期請求が生活の安定につながります。
②支給決定まで時間がかかる
障害年金は請求から決定まで数ヶ月かかるのが一般的で、実際に年金が振り込まれるまでには、最低でも半年は必要です。
傷病手当金と障害年金を切れ目なく受給しようとして、傷病手当金の受給期間の終了に合わせて手続きを始めたとしても、実際には長期間の空白が生じる可能性があります。
傷病手当金を受けながら、早めに障害年金を請求しておけば、いざ傷病手当金が終了してもあまり間を置かずにに障害年金に移行でき、無収入期間を短くできるメリットがあります。
★まとめ
傷病手当金 | 障害年金 |
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対象者 | 健康保険の被保険者 | 年金加入者(国民・厚生) |
支給条件 | 働けない・給与がない | 一定の障害等級 |
金額 | 標準報酬月額の2/3の日額 | 報酬比例・定額(等級による) |
支給期間 | 最長1年6ヶ月 | 障害が続く限り(更新あり) |
うつ病等の精神疾患の場合、日によって症状の波が激しく完全に治癒するのは難しいです。
また、何らかの出来事をきっかけに症状が重症化することも多い傷病であるため、傷病手当金受給期間中に治癒することは稀であるといえます。
そんな場合に、早期に障害年金の受給権をえておけば、収入が途絶える事もありません。
さらには、症状が重症化した時の額改定請求や症状が軽くなったと見なされた場合の支給停止の解除請求も可能になり、これらの手続きは新規に行うよりも比較的スムーズです。
こうした事を踏まえると、傷病手当金受給中に障害年金の請求を準備しておくことは、賢明な選択です。
傷病手当金が障害年金より金額が大きい場合でも、将来の生活設計のために、早めのタイミングで手続きを進めるのがベターといえます。