メンタルヘルス疾患が治ったのに、職場に居場所がない?


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昨今、メンタルヘルス疾患により長期休職する労働者の方がふえてきており、厚労省の調査によると、令和4年11月から令和5年10月までの1年間にメンタルヘルス不調による連続1カ月以上の休職者またはメンヘル不調による退職者がいた会社の割合は13.5%となっています。

そしてメンタルヘルス不調によって、最も会社とのトラブルになりやすいのが、先日の記事でもふれたように、休職期間満了直前になってからの復職しようとする場合です。

この場合、メンヘル不調だった労働者の方は、休職期間中に復職できずに自然退職となってしまうことを避けるために、主治医に「復職して問題ない」旨の診断書を会社に提出し復職を求めるわけですが、これを認めない会社がふえてきているのです。

復職の要件

メンタルヘルス不調による休職からの復職の要件の一つに「治癒」という概念があります。

これは、原則としては、従来行っていた業務を通常の程度に行えるまで健康状態が回復していることを指します。この点につき、片山組事件で判例は下記の通り判示しています。

「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について、労務の提供が十分にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易度に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、その提供を申し出ているのであれば、なお債務の本旨に従った履行の提供がある解するのが相当である。」

つまり上記判例から、従来の業務に復職できない場合であっても、会社の実態や労働者の方の回復具合などをみて、当該労働者が配置されえる他の軽易な業務があり、実際にその労働者が同業務について労務の提供を申し出ているときは、会社は同業務での復職をさせずに自然退職扱いとすることはできないのです

主治医の診断と産業医の役割

復職要件となる、治癒しているかどうかの判断を巡っては、労働者の主治医の診断と会社の産業医とで判断が異なることは先日の記事

でも書いた通りで、主治医の診断書には当該労働者の病状よりも休職期間満了が近づいていることから職場に復帰したい、という意向が反映されるため、主治医の診断と産業医の判断が食い違うことがあるのです。

厚労省が発表した「心の問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、安衛法は規定する産業医の役割について触れ、会社に対しても、下記の通りの対応を求めています。

①休業中の労働者から会社に対し、職場復帰の意思が伝えられた場合に、会社は労働者に対し主治医による「職場復帰は可能」という判断が記された診断書の提出を求めること

②診断書には、就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見を記入してもらう事

③その際、主治医による職場復帰可能の判断が、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らないため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容などについて、産業医等の精査をへて、採るべき対応を判断すること

つまり、休職していた労働者が復職するにあたっては、職場の状況をよく把握しており、かつ、医学的見地を有する産業医の意見を十分に勘案し、その復職の可否を判断するよう会社は求められています。

主治医の診断の重要性

上記の通り、会社は主治医の診断を尊重つつ、それに対する産業医の意見なども踏まえ、最終的に復職させるかどうかの判断をするわけですが、その中で、会社が主治医に実際に合わないで解雇したり、休職期間満了で自然退職扱いとする事が多くあります。

しかし、主治医に会わないで当該労働者の健康状態を聞かずに解雇、退職扱いとしても無効となる可能性は高いのです。

その点につき、J学園事件の判例では、学校の先生がうつ病にかかり、休職と復職を繰り返している中で、学校側としては勤務に耐えられないとして判断し普通解雇を行いました。校医が主治医に連絡しても主治医が返答しなかったのもあるのですが、それ以上は何も連絡はせずに解雇処分としてしまいました。

それに対し裁判所は、

「学校は、当該教員の退職の当否などを検討するにあたり、主治医であるA医師から、治療経過や回復可能性などについて意見を聴取していない。これにはB校医が連絡しても回答を得られなかったという事情も認められるが、そうだとして三者面談まで行わないとしても、学校の人事担当者であるC教頭らが、A医師に対し、一度も問い合わせなどをしなかったというのは、現代のメンタルヘルス対策の在り方として、不備なものと言わざるを得ない」

と判示しています。

上記判例は、メンヘル疾患のある労働者の健康情報を一番知っているのは主治医であるため、会社が主治医に何らかの形で接触して健康状態を確認せずに退職や解雇を行うことは許されないという事が読み取れます。

そうしたことから、現在では、会社が自然退職・解雇を行う前に、人事担当者などが本人同席の上、主治医に面談することや、もしくは書面で主治医に回答を求めることが通常となっています。

復職要件と業務遂行能力

会社が復職可否の判断をするにあたり、主治医の診断書にみに基づいて復職後の業務遂行能力の程度を評価するのは通常は難しいです。そこで、試し出勤などのリハビリ勤務を実施し、復職後にどの程度のパフォーマンスが発揮できるのかをある程度把握するわけです。

そこで、リハビリ勤務を実施した結果、職場復帰した労働者に欠勤や遅刻、早退等があったり、業務にミスが見られたり、一定の成果がみられなかった場合はどうなるでしょうか。

メンタルヘルス疾患が原因の場合は、通常の程度に業務を行える状態でないケースがほとんどですから、リハビリ勤務の過程で通常程度の業務を行うことができる状態まで回復すると見込める場合は、会社は復職を認める必要があります。

実際のケースでは、メンヘル疾患が原因で、会社が期待する業務遂行能力まで達していないという事がほとんどと思われますが、それでもやはり主治医が復職可能と診断していることから、はっきりとした根拠もなく自然退職とするのは難しいでしょう。

復職にあたっての諸問題

労働者が復職しようとする際に、例えば、元と業務でのパワハラや過重労働が原因があったために、従来の業務に復帰するのに差支えがある場合、労働者側では、現実的に配置可能な他の業務の特定とその申し出をする必要があるか、そしてその必要があるとした場合にどこまでの特定が必要かという問題があります。

復帰先に従来の業務とするのが難しい場合でも、労働者としては復職に前向きな姿勢を会社にアピールする意味で、従来の業務かまたはそれに類する業務での復職を希望するケースもありますが、実際には従来の業務にすぐに復帰できるのはまれなケースです。

現実的には、他にも配置可能な業務があるようなときにその業務を希望し、当該業務への就労を申し出ることが妥当な対応ですが、それでは、配置可能な業務をどこまで特定して主張する必要があるのでしょうか。

この点につき、東海旅客鉄道事件では、

「労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合においては、休職前の業務について労務の提供が十分にはできないとしても、その能力、経験や会社の規模や業種、その社員の配置や異動の実情、難易度などを考慮して、配置換えなどにより現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合にはこれがある場合には、当該労働者に当配置可能な業務を指示すべきである。そして、当該労働者が復職後の職務を限定せずに復職の意思を示している場合には、会社から指示される配置可能な業務について労務の提供を申し出ているというべきである」

と判示し、労働者側が復職後の職務を限定しない場合、会社側で現実的に配置可能な業務を検討して労働者に指示すべきとしています。

しかし、社内で現実的に配置可能な業務がない場合は、従来の業務への復帰を検討せざるを得ませんが、その場合には会社が期待するような業務遂行能力に達していないことを理由に自然退職とすることはできません。

そのため、まずはリハビリ勤務などで軽易な業務を行う過程を経る必要があるのですが、その場合でも、当該業務に対し、出退勤が安定しなかったり、業務への集中力が低くミスが多いなどの事から、メンタルヘルス疾患から十分に回復していないと会社の方で判断されれば、主治医が復職可としている場合でも、会社側では休職期間の満了による自然退職とすることは可能であると考えられる点には注意が必要です。

当サイトでは、今後も職場でのメンタルヘルス疾患の問題を順次取り上げていきたいと思います。

メンタル不調による休職から退職となってしまった場合の所得補償に制度については、こちらの記事からご確認下さい。

退職後の暮らしを支える障害年金が受給できるかの要件は、こちらの記事からご確認下さい。

 

 

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