
職場うつに。生活の不安は、どう解消すればいいんだ?
パワハラや長時間労働で心を病み、働けなくなった―。
そんな現実に直面したとき、多くの方は「妻のこと」「家計のこと」「子どもの教育費のこと」…
すべてを一人で支えなければならないという重圧に、押しつぶされそうになります。
そんな時に、仕事が原因だと思っても、*「うつでは労災申請は無理」*とあきらめていませんか?
実は今、制度は変わりつつあります。
令和5年9月、労災認定基準が大きく見直されました。
そこでぜひ知っていただきたいのが、労災保険と障害年金という2つの支援制度の違いと併用の可能性です。
労災と障害年金、2つの制度の違いと「併用」の可能性とは?
◆知っておきたい:2つの制度の基本的な違い
項目 | 労災保険(労働基準監督署) | 障害年金(日本年金機構) |
---|---|---|
主な対象 | 業務上の負荷・パワハラなどが原因の病気 | 働けないほどの障害(原因はほぼ問わない) |
審査の焦点 | 「業務が原因かどうか」(業務起因性) | 「日常生活・就労能力にどの程度支障があるか」 |
支給内容 | 休業補償・障害補償・療養費など | 障害基礎年金・障害厚生年金(1~3級) |
原因の要件 | 業務による「心理的負荷」が強かったかどうか | 業務外でも対象(家庭の問題、体質的要因などでも可) |
【重要】令和5年の労災認定基準の改正で、こう変わりました
これまで、労災として認定されるには「発病前の業務が原因」という考え方が中心でした。
つまり、体調に異変を感じ、医療機関で初診を受け、「うつ病」等と診断される前のパワハラや長時間労働の証拠のみが労災認定上の証拠として扱われてきたのです。
ですが、令和5年9月1日の改正により、
「すでにうつ病などを発症していた人でも、新たに強い心理的負荷が加わり悪化した場合は、労災の対象とする」
と明記されました(厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」改正)。
これにより、次のようなケースも認定対象になり得ます:
-
数年前にうつ病を発症 → 回復傾向にあった
-
ところが最近、上司の交代で再び強いパワハラを受ける
-
症状が急激に悪化 → 再び働けない状態に
このように、初診以降の心理的負荷の強い出来事でも、それが業務との因果関係があれば、労災認定の可能性が認められるになったのです。
障害年金は、「原因不問」で申請できるセーフティネット
障害年金は、「働けないほどの状態」又は「働き方がかなり制限される状態」であれば、その病気が業務に起因するかどうかは関係ありません。
たとえば:
-
家庭でのストレスが原因で発症したうつ病
-
元々うつ病であった中で介護等で仕事を辞めたあとに、その疲れから悪化した精神疾患
こうしたケースでも、初診日が国民年金か厚生年金に加入中なら受給の可能性があります。
※障害年金が受給できるかの要件は、こちらの記事からご確認下さい。
そして、障害厚生年金2級なら、家族構成があなたと配偶者・18歳未満の子1人で 月額18~20万円前後(令和7年度)が支給されます。
実は併用もできる!【労災保険と障害年金の同時受給のしくみ】
労災保険と障害年金は別の制度なので、基本的には併用可能となります。
ただし、下記の通り一部受給額が調整される場合もあります。
労災給付の種類 | 障害年金との関係 |
---|---|
休業補償給付 | 併用可能(減額調整なし)+休業特別支給金 |
障害補償給付(年金) | 障害年金と重なると一部調整あり(障害特別支給金で補填が可能) |
療養補償給付(医療費) | 併用可能(治療費は全額無料) |
-
労災保険:休業補償給付+休業特別支給金月約30万円+医療費全額補助(療養補償給付)
-
障害厚生年金2級:月額約18万円(+配偶者加入年金と18歳未満の子ども1人の加算額)
※障害厚生年金の支給額については、こちらの記事からご確認下さい。
上記から合計で月約48万円以上の支援になる可能性もあるのです。
これは、あなたの回復期間を支えるためにも、家族の生活を守るためにも極めて大きな意味を持つことがわかると思います。
両制度の申請が上手い具合に通れば、上記の通り十分な補償が得られるのですが、実際はそう簡単にはいかない事もあるのです。
労災認定には厳しい現実がある。その理由とは?
① 「業務起因性」が極めて厳しく審査される
労災認定の最大のポイントは、「その病気が、業務が原因で起きた(または悪化した)」と証明できるかどうかにかかっています。
労災認定の審査で立ちはかだる主な壁として、下記の点が挙げられます。
①パワハラの“証拠”が音声や文書で残っていない
②医療機関の初診がかなり後で、時系列のつながりが薄い
③会社側が「そんな事実はない」と否定してくる
特に①は、パワハラの証拠が1個では十分に立証できず、継続的に複数回行われたものがパワハラと認定されやすくなります。具体的には、下記のような証拠が揃っていないとなりません。
- LINEでの罵倒や中傷の記録
- 社内チャットでの罵倒や中傷の記録
- メールでの罵倒や中傷の記録
- 上司との会話や通話の音声記録
- 手書きのメモ (どんな被害にあったかを記録したメモや手帳)
これだけの証拠を、日々罵声を浴びながら業務もこなさなければいけない中で集めるのは、あなたにとっては大変な負担となると思います。
労災申請の現場では、まず上記にあげたような証拠を整理したうえで、労災認定する労働基準監督署で事前相談することになるのですが、この時点で証拠不十分という事となり、労災申請を諦める事も少なくないようです。
ですが、これは逆に言えば、それなりに証拠が揃っていれば、労災認定される可能性は高くなるともいえます。
② 労災の「精神障害」での認定は全体の2〜3割程度
厚生労働省の統計によると、精神障害の労災請求件数は年々増加しているにもかかわらず、
直近の年度では**認定率は約30%前後(3人に1人未満)**にとどまっています。
しかも、認定されるのは、明らかな過重労働(月100時間以上残業)や、証拠がはっきり残るパワハラなどのケースが中心です。
そのうえで、証拠がはっきりと残っていたとして、その証拠の成否を判断するために、監督署が情報・書類等の調査や収集を行うのですが、これは労災申請したあなたをはじめとして、勤務先の会社や通院先の主治医等、多方面に及びます。
ここが、障害年金において、請求するあなた自身が書く申立書や主治医の診断書で、障害認定基準への合致を証明しなければならない点と比較して、大きく異なる点です。
特にうつ病などの精神疾患の場合、証拠が不十分だと、会社側がパワハラの事実を認めずに上司・会社側の主張の方が強く見える事から認定されない事にも注意が必要です。
また、労災保険給付の請求書には、病気の原因および発生状況について詳細に記載することが必要なのですが、請求用紙には数行分のスペースしかない為、まずは概要だけを請求書に記載し、詳細は別紙に記載していくのが通常です。
その過程で、あなたやご家族が「何度も辛い記憶を掘り返さなければならない」場面が出てくるため、その時点で断念してしまう事もあります。
苦労して書き上げた請求書を提出しても、審査には半年~1年程度かかることも少なくなくありません。
だからこそ、「障害年金との併用」で現実的な道を拓くべき
◆障害年金は「働けない状態」が基準になる
障害年金の審査では、上述した労災保険の認定ほど「何が原因で働けなくなった」ことについて、厳しくは追及されません。
むしろ必要なのは、「一人では外出するのが難しい」ことや「集中力が続かずニュース番組を見たり、簡単な読書することが難しい」といった、日常生活や仕事への支障の度合いを具体的に証明することです。
あなたが日々どう過ごしているかを客観的に書き出し、それを主治医が書く診断書に適切に反映させられれば、受給の可能性は十分にあるのです。
◆労災認定が下りなくても、障害年金が支えてくれる
うつ病などの精神疾患での保険給付の請求は、労災保険はその認定率の低さから「勝ちに行く申請」であり、障害年金は「支えてくれる制度」と捉えることもできます。
その様に二つの制度を理解すると、障害年金の方が先に結果が出ることも多いため、まずは、
①障害年金から着実に申請する⇒②その後に労災申請で上乗せを狙う、という方法が現実的であると思われます。
※当オフィスの代表は、労働問題にも精通しているため、障害年金申請とあわせて労災保険請求の業務を代行させていただく事も可能です。
各制度の正確な理解が、家族の生活を守るカギ
改めて上記二つの生活保障の制度を比較すると、下記の通りです。
制度 | 審査の厳しさ | 支給までのスピード | 認定のしやすさ |
---|---|---|---|
労災保険 | 非常に厳格(証拠重視) | 時間がかかる(6ヶ月以上) | 認定率30%前後 |
障害年金 | 比較的スムーズ(実態重視) | 早ければ2~3ヶ月 | 精神疾患でも多く支給実績あり |
あなたが「働けない」ことは、昨今の激しい社会情勢の変化のなかでは、もはやおかしな事ではなく、普通の家庭でどこでもあり得る事です。
その為に国は、労災保険や健康保険の傷病手当金、障害年金などの制度という支援策を用意しているのです。
しかし、制度だけが整備されても、対象となる方々がその制度をよく理解して、実際に使わなければ意味がありません。難しい手続きは、社労士などの専門家と一緒に進めていくことで、心の負担も軽減できますが、場合によってはあなた方だけで進めていくことも可能です。
※障害年金の書類作成を自力で行うための重要ポイントは、こちらの記事でとりまとめています。