
障害年金の申請において、「病歴・就労状況等申立書(以下、申立書)」は極めて重要な役割を果たします。
それは主治医が作成する診断書と並んで、申請者の病状や生活の実態を伝える重要な補足資料であり、診断書の内容に大きな影響を及ぼすことからも、申請の可否を左右するほどの影響力を持っています。
この記事では、申立書の役割と重要性を明確に解説した上で、日常生活の困難さを具体的かつ正確に伝えるための書き方のコツを解説します。
病歴・就労状況等申立書とは?
◆申立書の目的
申立書は、申請者自身がこれまでの病歴や就労状況、日常生活における支障などを時系列に沿って記載する文書です。診断書だけでは伝えきれない「日常生活の実態」を、本人の視点から訴えることができる唯一の書類です。
◆ 診断書との違い
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診断書:医学的見地からの評価(主治医が作成)
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申立書:本人や家族が感じている生活上の支障(申請者が作成)
この2つが相互補完的に一致していることが、審査側にとって非常に重要になります。
また、先日の記事でもお伝えした通り、ほとんどの医師は障害年金について学ぶ機会がなく、それについてに適切な知識ももっていません。多くのケースで、診断書作成の基本的知識のないまま自己流でかいてしまうことがあります。
その意味でも、申請者側が申立書で日常生活を送る上での困難さを上手く主治医に伝える必要があります。
申立書の影響力~診断書に影響を与える力とは~
◆ 主治医の判断材料になる
申請者が診断書作成を主治医に依頼する際、申立書が事前に用意されていると、医師がより具体的に症状の経緯や生活の支障を把握しやすくなります。これにより、診断書の精度と説得力が高まります。
◆矛盾や食い違いを防ぐ
申立書に記載した内容を主治医と共有しておくことで、診断書との矛盾や食い違いを最小限に抑えることが可能です。逆に言えば、不一致があれば「信用性が低い」と判断され、審査に不利に働いてしまいます。
申立書の具体的な記載要領
①傷病名
うつ病などの場合、病名が申請者に知らされていない事も多くあります。その為、申請者のほうから、正確な病名について主治医に確認を取っておく必要があります。
そして、この欄の記載は、主治医が書く診断書の欄「障害の原因となった傷病名」に記載される病名と同一にします。ですから、診断書の病名が「うつ病」であれば、申立書記載の病名も「うつ病」とするのです。
②発病日と初診日
発症日は正確にわからない事も多くあることと思いますので、その場合は「ー年ー月頃」というぐらいで大丈夫です。日にちまで記載する必要はありません。
ですが、初診日のほうは、年月日をすべて正確に記入する必要があるので、初診をうけた医療機関に確認して記入します。
③発病してから現在までの経過
発病から初診にいたったまでの経緯と発病した時の状態を記載します。
申請者としては、発病した時のことは衝撃的で強く印象に残っている事で、色々な出来事が思い出されるでしょうが、ここでは、それらの情報を上手く選択し、簡潔にまとめます。
具体的には、
「期末近くになり長時間労働が続き十分な睡眠時間が確保できなくなり、ミスも増え、上司から叱責を受けることも増えてきた。そんな状況が続く中、ある日朝起きたら寝床から起き上がれないくらい体が重く、気持ちを沈み、自然と涙が出てきた。そのような日が何日も続いたので、~年~月~日に心療内科を受診してうつ病と診断され、会社は休職した」といった感じです。
④発病したときから現在までの経過(第2枠以降)
初診からの受診経過を、第2枠以降にまとめていくのですが、特にここでは重要な初診日を明確に記載します。
具体的には初診日は、「~年~月~日」という形で、日にちまで記載することが必要です。
また、うつ病の場合、最初の受診機関が心療内科等でないことも多くあるので、その様な場合は「診断書を書く精神科医が、精神疾患での受診をしたことを認めた最初の医療機関」を初診医療機関とします。
ここの記載欄の重要点は、
- 初診の医療機関での状況
- 障害認定日後3カ月以内の受診の有無
- 障害認定日から1年以上経過している場合は、現在の受診状況
です。障害認定日については、先日の記事をご参照ください。
どの程度記載する必要があるかですが、まずは症状の概要、治療内容や受診の頻度などを盛り込んでいきます。
ここでの症状の概要を、「日常生活の困難さを伝えるための重要ポイント」として、抽象的な表現は避け、具体的な例を挙げるようにするのがベターです。
例えば、「外出するのが大変です」ではなく、「1人で外出すると電車に乗ることができず、パニックになるため、必ず家族が付き添っています。週に1回の通院以外は外出していません。」まで記載し、その様に困っているかや、誰の助けが必要かといった事を具体的に記載していきます。
⑤障害認定日頃の状況
障害認定日頃に就労していた場合は、就労の状態を見て障害の軽重を判断するので、①職種②通勤方法③手巾日数④仕事中や仕事が終わったときの体調、について記入します。
ここで気を付けたいのが、自分の障害をあまり認めたくないため、無意識のうちにご自身の障害を軽度に表現してしまうのが多いことです。これでは、本来通るべき申請も通らなくなってしまいます。
逆に、休職して長期に職場かを離れていた場合には、「就労していなかった」として記入するほうが、障害の状態を適切に表現できることになります。
日常生活の状況については、①着替え②トイレ③食事④炊事⑤掃除⑥洗面⑦散歩⑧洗濯⑨買い物、の各項目についてどの程度制限されているかを記入します。
これらの項目については、申請者が普通の健常者と比較して、単身で生活した場合にどうであるかを想定しながら考えてみることがポイントです。
⑥現在(請求日)の状況
この欄については、上記「障害認定日頃の状況」の記載内容と同じであることから、上述した内容を押さえつつ、就労状況と日常生活状況を記入します。
※病歴・就労状況等申立書のひな型はこちらからご覧ください。
3-2. 家事・食事・入浴・服薬など、生活行為を丁寧に記述
生活に必要な行為を以下の視点で細かく記載すると、主治医に日常生活の状況がより伝わりやすく、診断書の内容にも反映され好ましいです。
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食事:調理はできるか?時間はかかるか?1人で食べられるか?
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入浴・清潔保持:1人で入浴できるか?頻度は?介助は必要か?
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服薬管理:飲み忘れがあるか?1人で管理できるか?
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通院・外出:公共交通機関を使えるか?付き添いは必要か?
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対人関係:家族以外と話せるか?職場での人間関係に困難はあるか?
ですが、申立書には、これらの事柄まで詳細に記述できるほどのスペースはないので、別途「日常生活状況報告書」として、そちらで詳しく書いていく方が申請者の主張が十分に反映され、より効果的です。
この補足書類の書き方については、後日の記事で取り上げますが、評価されるのは「生活全体の困難さ」です。
「少しできる」と「自立して行動できる」は全く意味が異なるため、できる・できないを客観的に説明する必要があります。
書く際の押さえるポイントとまとめ
申立書を書いていく際に意識しておきたいポイントは、以下の通りです。
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時系列で整理する(初診時~現在まで)
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通院の頻度・治療内容・薬の副作用なども記録する
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家族や支援者の意見も参考にする
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文章量は多少多くても丁寧に書く方が評価されやすい※申立書とは別に補足資料を準備する
「病歴・就労状況等申立書」や補足資料は、診断書だけでは伝えきれない生活の実態を補う重要な資料であり、**障害年金の審査における“説得力の核”**です。
単なる形式的な文書ではなく、**自分自身の実情を審査員に届けるための“証言”**として、真摯かつ丁寧に作成することが、診断書を書く主治医にもご自身の日常生活の困難な状況を正確に伝えることにつながり、結果を大きく左右することになるのです。