
うつ病や双極性障害などの精神疾患で障害年金の受給を検討する際、「初診日」が受給の可否を左右する非常に重要なポイントとなります。それは、障害年金受給のために、①加入要件②保険料納付済要件③障害状態要件の3つを満たす必要があり、いずれの要件にも、「初診日」が深く関わってくるからです。
※上記3つの要件については、先日の記事で簡単解説していますのでご参照ください。
しかし、多くの方が精神科や心療内科を受診する前に、不調を感じて内科など別の診療科を受診していることもまれではないため、初診日を正確に特定できないケースが少なくありません。
本記事では、初診日の定義、重要性、確認方法、よくある誤解やトラブル事例までをわかりやすく解説します。
初診日とは?【障害年金制度における定義と医証】
①障害年金における初診日とは、「障害の原因と傷病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日」と定義されています。
※初診日の証明は、カルテの基づいて記述される医師による証明(医証)によることが原則で、具体的には、障害年金請求のための診断書、または初診日が診断書作成の医療機関でない場合を証明する「受診状況等証明書」に、「文書作成医療機関の受診前に他の受診した記述がない」ことで、証明されます。
②単なる症状の自覚日ではなく、「医療機関を受診した日」であることがポイントです。
③この初診日において**年金の加入状況(保険料納付済要件)**を満たしていなければ、原則として障害年金の受給資格はないことになります。
医証とは?
医証とは、障害年金の申請や審査において、障害の存在・程度・発症時期などを証明する医師の作成した書類の総称で、「医学的な証拠」として、申請者の状態が客観的に確認できるようにするものです。
診断書を作成する医療機関が初診時の医療機関の場合は、その医療機関における初診日が記載された診断書が医証となるので、この場合は比較的簡単です。
問題となるのが、転院している場合で、この場合は診断書を作成する医療機関は初診時の医療機関とは異なりますので、診断書を初診日を証明する医証とすることはできません。
では、何を持って医証にするかというと、障害の原因となった傷病に関し、はじめて医師の診断を受けた日を証明した「受診状況等証明書」が初診日を証明する医証となります。
うつ病などでは、最初に精神科医以外を受診するケースが多くあり、不調を感じて内科医を受診することもあります。このような場合は、内科医を受診した時の傷病とうつ病が同一疾患とされれば「内科医受診の日」が初診日となり、当該内科医で受診状況等証明書を発行してもらう必要があります。
初診日が重要な理由
改めて、初診日が重要な理由を簡単に確認しておきます。
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受給資格の審査基準日(保険料納付済要件)と連動
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初診日の時点で、一定の保険料納付要件を満たしていないと、申請が通りません。
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障害認定日が決まる基準点
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初診日から原則1年6か月を経過した日が「障害認定日」となり、この日における障害状態で障害年金の等級が審査されます。
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初診日が証明できないと申請が進まない
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書類上で初診日が証明できない場合、申請そのものが受理されなかったり、あるいは「不支給」の原因にもなりえるので、初診日の証明は重要です。
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初診日の確認方法
ステップ1:受診歴を振り返る
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「最初にどの医療機関を受診したか」を思い出してみましょう。
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上記の述べたように内科や、職場の健康診断などが最初のケースもありえます。
ステップ2:医療機関に「受診状況等証明書」を依頼
・医療機関に「受診状況等証明書」を記載してもらうことで、公式に初診日を証明できます。
※当該書類は、初診以降ずっと同じ病院にかかっている場合には、当病院の主治医の診断書によって初診日が証明されるという理由から準備する必要はありません。しかし、初めてかかった病院から別の病院へ転院した場合は、初診日の確認できるように受診状況等証明書が必要になります。
・廃院・カルテ廃棄等で証明困難な場合、次の受診機関からの証明+第三者証明などの代替手段があります。
ステップ3:健康保険証や診療明細書を確認
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受診当時の健康保険証の記録や、通院記録、明細書、領収書が残っていれば手がかりになります。
医療機関で初診日の証明が出来ない場合
医証の作成のもととなるカルテは、受診終了後5年間の保存が義務付けられていますが、これは逆に、5年を経過したカルテは保存義務がなく、破棄されてしまう可能性も高いです。
一方、障害年金の請求において初診証明の遡及限度はなく、初診が5年よりも前でも医証が求められます。
うつ病などの精神疾患では、通常長期の療養が必要になり、それに伴い転医も多いことから、初診証明に苦労することもよくあることです。
どうしても最初に受診した医療機関で初診証明がとれないときには、2番目に受診した医療機関が記述した初診日についての記録が初診日として認められることもあります。
それでも初診日の証明がとれない時には、初診日の証明に間接的に使える資料として「精神障害者保健福祉手帳」や「精神障害者保健福祉手帳の診断書」などで証明できる可能性もあります。
第三者証明とは?
初診日は、上記のように医師による「受診状況等証明書」によって証明されますが、その証明が出来ない場合、「受診状況等証明書が添付できない申立書」を提出するとともに、初診日を間接的に証明する資料を提出する必要があります。
しかし、初診日から相当時間が経過していれば、間接的な書類も入手できないことはよくあります。
その場合、初診日の頃の受診状況を知っている第三者がいる場合は、その人に「初診日に関する第三者からの申立書(第三者証明)」を作成してもらい提出します。
第三者証明においては、その第三者が、
①通院の付き添いをした、入院時にお見舞いをしたなど、障害年金を請求する方が医療機関を受診していることを、初診日の頃に直接みて知っていた
②本人やその家族などから医療機関を受診した頃の様子を聞いて知っていた、のいずれかに〇をつけます。
さらに、請求者本人と第三者との関係や、第三者が見聞きして知っている当時の状況についてできる限り詳細に記入してもらいます。
※第三者とは、原則として、申請者本人・配偶者・扶養義務者以外の人を指し、家族以外の親族や友人・知人のことをいいます。
※第三者申立書はこちらから。具体的な書き方については、また後日記事にします。
初診日が曖昧な場合の具体的対処例
■ ケース①:最初は内科など別の科を受診していた場合
状況:精神科の初診日しか覚えておらず、実際はその前に内科で「不眠・倦怠感」の相談をしていた。
対処方法:
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当時通院していた内科に問い合わせて、受診履歴が残っているか確認
→ 精神症状に関連する記載があれば、その日が初診日になる可能性あります。 -
内科で証明が取れない場合は、精神科の初診で「○○症状について、以前△△医院を受診」との記録がないか確認
→ ある場合、それをもとに第三者証明や間接的証拠を提出します。
■ ケース②:通院記録が一切残っていない・受診医療機関が不明
状況:「どこに行ったかも覚えていない。時期も大まかにしかわからない」
対処方法:
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思い出せる範囲で時系列を整理する
→ 「○年ごろ、○○の仕事を辞めた」「引っ越しの直後だった」など、生活上の出来事と関連づけると思い 出せることがあります。 -
健康保険組合に医療費通知(過去の受診履歴)を照会する
→ 月単位でどこを受診したか分かる可能性が十分にあります。 -
当時の職場の労務担当、友人、家族などにヒアリングし、第三者申立書を準備
→ 「○年の秋ごろから様子がおかしく、心配していた」などの証言を得られる可能性があります。
◆ 補足:有効な資料一覧(証明補助)
種類 | 説明 |
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健康保険の医療費通知 | 過去の受診日・医療機関がわかります |
診察券・領収書 | 初診時期の証拠となります |
勤怠記録・休職証明 | 症状が出た時期の裏付けになります |
第三者の申立書 | 客観的証言として補足として有効です |
学校や会社の記録 | 通院・不調の時期を裏付ける証拠になります |
■ まとめ:障害年金受給を目指すなら「初診日」から逆算を
うつ病などの精神疾患で障害年金を申請する際、「初診日」がすべての起点となります。
その日を正確に把握・証明できるかどうかが、受給の可否を決定づけるといっても過言ではありません。
ですので、障害年金を受給するためには、下記の作業から進めてください。
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まずは最初の受診を思い出す
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現在通院している病院の前に、初めて受診した医療機関がある場合は「受診状況等証明書」を依頼する
- 書類が取れない場合は、上記補足で示したような代替手段の検討をする
また、カルテの保存期間が過ぎていて破棄された等で、どうしても初診日を証明することが出来ない場合は「受診状況等証明書が添付できない申立書」を作成する必要があります。
ただし、当該書類は「証明書が諸事情により提出できない」という事実を示すものでしかないため、これのみで初診日の受診証明とすることはできず、初診日を証明するための別の書類を準備する必要があります。
初診日を証明できるカルテは、この証明書類として重要ですが、これも古すぎて見当たらないケースが多いです。そのため、まずは存在するもっとも古いカルテを入手し、そのカルテに初めて受診した場所として病院の名称が記載されているかを確認し、そのうえでその病院での領収書を補助書類としてそろえます。
うつ病は、前述したように、長い期間にわたって治療が必要になることから、初診日のカルテが存在しないケースが多いため、このように複数の書類をそろえて初診日を明確にしていく必要があります。
そのためには、日頃から領収書を整理しておくことは不可欠ですし、こうしたプロセスを丁寧に進めることで、障害年金の申請を有利に進めることができます。