
退職勧奨と退職強要の違い
①退職勧奨
退職勧奨は、「勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動」とされていて、「これに応じるか否かは対象とされた労働者の自由な意思にゆだねられるべきもの」と考えられています(日本アイ・ビー・エム事件)
②退職強要
上記①のことから、経営者は退職勧奨を原則、自由に行うことができるのですが、その勧奨行為には限度があり、人選が著しく不公平であったり、執拗であったり、半ば強制的に行うなど社会的相当性をこえた手段・方法による退職勧奨は違法とされる可能性があります(鳥取県教員事件)。
このように社会的相当性を超えた態様の退職勧奨を、一般的に退職強要というのですが、退職強要は民法上の不法行為や労働契約上の債務不履行責任(職場環境配慮義務違反)とみなされ、経営者の損害賠償責任が生じたり、また、退職強要に基づいてなされた労働者の合意退職の申し込み・承認などが錯誤・脅迫によって無効・取り消しとなる場合もあります。
退職強要とメンタルヘルス
労働者が退職に応じない旨の意思を示しているにもかかわらず、執拗に退職勧奨し、退職しなければ解雇する旨を示唆しながら5回(1回につき1~2時間)にわたって退職勧奨面談を繰り返した結果、労働者のうつ病が悪化して休職・期間満了による退職となった事例について、過去の判例で、
「労働者の退職に関する自己決定権を侵害する違法な退職勧奨であるとして、損害賠償を認めるとともに、うつ病悪化の業務起因性をみとめて休職期間中の賃金請求が認められた」
判示があります(エム・シー・アンド・ビー事件)
また、上記に似た事案として、長時間にわたり罵詈雑言をあびせたり、ペットボトルを壁に投げつけるなどして威嚇し、委縮している労働者に対して、今後仕事上のミスをした場合には辞職する旨の誓約書を作成することを強要した行為について、当該行為を違法として使用者責任を認めました。また、当該違法な退職強要行為によって、被害労働者のうつ病の症状が重くなり就労できなくなったとして、被害労働者の休職期間中の労務提供の不履行は、会社側の責任によるものとして、被害労働者が会社にに対して民法に基づく賃金請求権を有することを認めた判例もあります(エターナルキャスト事件)。
上記のように、退職強要が一定の限度を超えた場合は、会社側に種々のリスクがあるのです。
退職勧奨拒否後の退職勧奨
上記のように、労働者が退職勧奨を拒否しているにもかかわらず、度を越えた退職強要は違法となる可能性が高いのですが、この点について、日本アイ・ビー・エム事件では、
「退職勧奨の対象となった社員がこれに消極的な意思を表明した場合であっても、それをもって、会社は直ちに、退職勧奨のための説明ないし説得活動を終了しなければならないものではなく、会社が当該社員に対して、会社に在籍し続けた場合のデメリットと退職した場合のメリットについて、さらに具体的かつ丁寧に説明又は説得活動をし、また、真摯に検討してもらえたかどうかのやり取りや意見聴取をし、退職勧奨に応ずるか否かにつき再検討を求めたり、翻意を促したりすることは、社会通念上相当と認めらえる範囲を超えた態様でなされたものでない限り、当然に許容されるものと解するのが相当」
と判示されています。
このことから、労働者が退職勧奨を拒否していても、そのうえで会社が当該労働者の退職について再検討や翻意を促すことは許容されると捉えられますので、会社側も継続的に退職勧奨を行う場合も想定されます。
ただし、さらなる説得後も当該労働者の退職拒否の意思が変わらなければ、退職勧奨を続けることは執拗なものに当たり、民法上の不法行為として違法とみなされる可能性は高いです。
退職勧奨に対して採るべき対応
上記の通り、退職勧奨は会社が労働者の自由な意思による労働契約の終了を促すものであるため、それは労働者の自由意思を尊重する形で行わなけれなならず、労働者には退職勧奨に応ずる義務はありません。
というのが一応の建前ですが、たとえその態様が社会通念上相当であったとしても、執拗に繰り返されれば、徐々にメンタル面が削られていき、精神が不安定なまま仕事を行うことによるミスの続出、といったことも十分にありえます。
そうなると、通常、退職勧奨は解雇の前段階としてなされる場合があるため、当該ミスを懲戒事由の格好の材料としてあつかわれることで、解雇リスクが高まる場合もあります。
そうしたことを考慮すると、退職勧奨に応ずることで、退職金の上乗せがされたり、離職票の退職事由に会社都合扱いとなりすぐに失業給付が受けられたり、というメリットもあるので、執拗に繰り返される場合は、ならべく早期に応じて、新たな活躍の場所を求める方がベターといえます。
万が一、執拗な退職勧奨でメンタル不調をきたしてしまった場合は、家族としてのサポートは、退職する前段階として、国の所得補償制度をよく調べて、会社に休職制度があれば、まずその休職制度を利用して、ご主人の心身の回復に努められるような環境を整えてあげることです。
国の所得補償制度については、先日の記事で詳しく載せていますので、ご参照ください。
そうして、心身をリフレッシュさせることが出来れば、今の会社の事など忘れ、徐々に次の新天地へと気持ちが前向きになっていくものと思います。
また、退職後の暮らしを支える障害年金が受給できるかどうかの要件は、こちらの記事から確認できます。